Dr.森田の医療・介護ブログ

地域医療・家庭医療の医師&医療経済ジャーナリスト、Dr.森田が綴る医療・介護のブログです。







スポンサーリンク





独居高齢者激増?の裏にある病院・施設での世帯分離とは…? ~続・人間がかかる最も重い病気は「孤独」である~

f:id:mnhrl-blog:20181203064529p:plain

 

 

 

 

こんにちは森田です。

 

先日こんなニュースがありました。

 

www.nikkei.com

 

 

単身高齢世帯がすごい勢いで増えているとのこと。

たしかに、日本の高齢化率はどんどん上昇中。

あと数十年で高齢化率はなんと40%に達するとのこと…

と考えると、まあ、このニュースもある意味仕方ないのかもしれませんね。

 

ただ、一つ気になることがあります。上のニュースは「高齢世帯」の増加ということですが、「高齢者」が増えるのと、「高齢世帯」が増えるのとでは少し意味が違うのかも?という論点です。実は、気になるデータがありまして、それがこちら。

 

 

65歳以上人口のうち、単独世帯(一人暮らし)の割合

f:id:mnhrl-blog:20181202160501p:plain

総務書統計局ホームページ:統計Today No111、図4より 

https://www.stat.go.jp/info/today/111.html

 



 

 

高齢人口のうち単独世帯の割合がもっとも多いのが東京都で23.2%、2番が高知県、3番が鹿児島県で、4番が大阪府。なぜか東京・大阪の大都市に混ざって高知・鹿児島が上位にランクインしてるんですね。

 

勘の良い方ならピンと来るかもですが…

 

そう、実は鹿児島・高知は人口あたりの病床数も、一人あたりの入院医療費も、高齢者一人あたりの施設・居住系の介護費(施設・居住系サービス)も、全て全国トップレベルなんですね。

 

 

f:id:mnhrl-blog:20181202164101p:plain

出展:財政制度等審議会 財政制度分科会 議事要旨等 平成30年10月30日 資料2

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia301030/02.pdf?fbclid=IwAR3_cgNYldjq9eH_HTQeaybRZ8tixOw1u5J9m4v6LnrdmpQJ0l9rJ4dFn2s

 

 

f:id:mnhrl-blog:20181203065127p:plain

内閣府・社会保障ワーキンググループ 「医療+介護」の「見える化」について②

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg1/280408/shiryou5.pdf

 



 

 

 

ん?

医療費・介護費が高い県は「高齢世帯」が多い?? 

 

…なんででしょう、、疑問ですよね…(^_^;)。

 

 

ここでキーワードとなるのが表題の「世帯分離」です。

 

「世帯分離」

 

あまり聞き慣れない言葉ですね。

まあ、要するに、今まで同じ世帯の一人として役所届け出していた家族(例えば今回のテーマの場合高齢の方)を、別の世帯として届け出し直すということです。

 

なぜこんなことをするのでしょうか。

その理由のひとつに、「医療費・介護費の軽減目的」があるようです。

 

こちらのブログに具定例が詳しく書かれていますが、この方は世帯分離をすることで、高齢のお父さんのひと月の入院医療費(自己負担分)が8万から2万4千円台に下がった、とのこと

 

 

xn--t8j6c6de2351bzzc5r8m.com

 

 

 

 

 

なるほど、ここまで差があるのなら「世帯分離」が広まるのも無理はないのかもしれません(もちろん、収入の額などによっては得する話ばかりではないようです。)

 

 

ちなみにこのブログの方の場合、病院のソーシャルワーカーさんからこの「世帯分離」を教えていただいたということですが、では、実際に実際に現場ではそういうことが行われているのでしょうか?

 

知人の病院勤務ソーシャルワーカーさんに聞いてみましたところ、

 

「みんなかどうかは知らないが、自分は選択肢に入れているし、患者さん・ご家族の負担軽減になるのであれば、それを選択しない理由はない」

 

とのことでした。なるほどなるほど…ま、そうですよね。

 

もちろん、こうした「世帯分離」は倫理的に問題がある、というご意見もありますし、実際僕も、「ちょっとな~」と思うところはありますが、、、とはいえそれでも実際に困窮されている方にとってはそれ以外に手がない、というのも事実でしょう。

 

そして、そういう方が「ごく一部」ではなさそう。というのが先程のグラフを見るとよくわかります。

 

 

 

再掲

f:id:mnhrl-blog:20181202160501p:plain

 

f:id:mnhrl-blog:20181202164101p:plain





 

 

それが本当の幸せなのか。

 

 

こうした議論をしていると、つい「国の医療費」とか「国の財政」など、マクロ経済的な視点からの批判をしたくなるところですが、(それは至極当たり前なのですが ^_^;)、ちょっと視点を変えて「それがその方にとっての本当の幸せなのか?」と言う視点で見るとまた、新しい景色が見えてくるような気がします。

 

…もちろん、病気の治療や介護が必要だったりで入院・施設入所が必要という方はおられます。ただ、そうした病気の治療や介護にもまして多くのご高齢の方々にとって本当に必要なのは、実は「親しい人との日常的なつながり」だと僕は思うのです。

 

僕は医師という職業柄、病院や施設におられる方々の診療に携わっています。そしてその方々のお顔を拝見していつも思うのは、「笑顔が少ない」ということです。その中には、住み慣れた地域に「親しい人」がたくさんいたのに、入院・施設入所することでその関係性が断たれ、新しく入った施設でもなかなか良好な人間関係を築けない、という方々も少なからずおられます。

 

 

f:id:mnhrl-blog:20181121142615j:plain

f:id:mnhrl-blog:20181106235513p:plain

 

f:id:mnhrl-blog:20181106222237p:plain

 

 

 

 

病院では人間関係にもまして治療や安全管理が優先されがちです。

また介護施設でも、介護職員は食事介助やトイレへの誘導などの介護業務で精一杯、入所者間の良好な人間関係の構築までに時間を避けるところは決して多くない、というのが実情でしょう。となると、なかなか「笑顔」も生まれない。。

 

 もちろん、僕は入所さんの笑顔に溢れた素晴らしい高齢者施設もたくさん知っています。ただ、個人的な感覚で言えば、そういう施設はやはり少数派だと言わざるを得ません。……もし高齢者施設や療養病院が十分に整備されている県や地域の方で、この「笑顔のない生活」が量産されているのだとしたら…それは我々の社会の明るい未来と言えないでしょう。

 

一方で、農村や離島・僻地では、足腰が弱かったり認知症の高齢者の方でも地域の人間関係の中で元気に過ごされていたりします。

 

f:id:mnhrl-blog:20181202154655j:plain

足腰が悪くても地域で暮らされているおばあちゃん

f:id:mnhrl-blog:20181203162404p:plain

夕張市で元気に雪かきされている認知症のおばあちゃん。

 

 

 

 たとえ高齢で病気や障害を持っていても、病院や施設でなく住み慣れた地域でいきいきと生活されている方々に共通して言えること。それは、地域の人間関係の中で長年培った「きずな貯金」という莫大な資産を持たれていることです。

プライベートが重視され、個人間の壁が高い都市部ではなかなかこうした地域の絆が育ちにくい環境なので、難しいかもしれません……。ただ、そんな地域の関係性が希薄な環境では、やはり高齢で病気や障害を抱えた状態になってしまうと、病院や施設に入ったほうが安全・安心ということになってしまいがちです。そして、たとえ病院や施設に入って「安全」と「安心」を得たとしても(それは私達の安心だけかもしれませんが)、それと同時に前掲の写真のように「孤独」まで得てしまうというリスクは大いに有り得ることだと思います。我々日本の社会は高齢者の身体の「安全」と我々の側の「安心」は重視しても、「社会的な孤立・孤独」についての危険性をあまり重視していないのではないでしょうか。

 

 

 

人間がかかる最も重い病気は「孤独」です。

 

 

 

「きずな貯金」や「笑顔のある生活」を取り戻すために、我々はこれからどんな社会を作るべきなのでしょうか。

もう一度、社会の根本のところから考え直したほうがいいのではないか、と僕は思っています。

 

 

まあ、こんな考え方、今の日本社会ではまだまだ突飛かもしれませんけどね(^_^;)

皆さんはどう思われるでしょうか。

 

 

 

 

 

f:id:mnhrl-blog:20170316073204j:plain 森田 洋之 

1971年横浜生まれ。経済学部卒後、医師に。夕張市立診療所の元院長。財政破綻で病院がなくなっても夕張市民は元気だったよ!医療費も減ったよ!と論文やTEDxで発表したところ各界から総スカンを食らう。今は鹿児島県でフリーランス医師。懲りずに執筆・講演・研究・web発信など儲からないことばかりやっている。日本内科学会認定内科医、日本プライマリ・ケア連合学会指導医。鹿児島県 参与(地方創生担当) 

 

 

 


f:id:mnhrl-blog:20181107001841j:plain

「破綻からの奇蹟 〜いま夕張市民から学ぶこと〜 」

 

 

 

★★★2016年度 日本医学ジャーナリスト協会 優秀賞受賞作品★★★

 

 

財政破綻・医療崩壊・さらに高齢化率日本一。

悪条件に取り囲まれてしまった夕張市。

 果たして夕張市民の命はどうなってしまうのか?‥。

 破綻後に医師として乗り込んだ筆者は、

それでも夕張市民が笑顔で生活していたことに驚く。

事実、財政破綻後のデータは夕張市民に健康被害が

出ていないことを示していた。

 

 「病院がなくなっても市民は幸せに暮らせる! 」

 

 もしそれが事実なら、一体なぜなのか?

 本書は、その要因について、先生(元夕張市立診療所所長)と

生徒2人の講義形式でわかりやすく検証してゆく。

 

夕張・日本・世界の様々なデータを鳥の目で俯瞰し、

また夕張の患者さんの物語を虫の目で聴取するうちに3人は、

夕張市民が達成した奇蹟と、その秘密を知ることとなる・・。


少子高齢化や財政赤字で先行きが不透明な日本。

本書は、医学的・経済学的な見地から

日本の明るい未来への処方箋を提示する希望の書である。

 

ご注文はこちら

 ↓↓

www.mnhrl.com